チェコから来たカウンターパンチ
ハーフタイム終了。kuromame vs チェコ後半戦の幕開けです。
今日は『チェコのアートアニメーションワールド』Bプログラム。レディースデー+チェコアニメという事もあり、男性1に対して女性20くらいの比率でした。ちょっと引き気味に観てた(汗)。
内容は、「イイモノだけBプログラムに寄せた?」ってくらい、典型的なチェコのアニメーションでした。良いモノのさらなるうわずみという感じです。明日(4/27(Fri))もやるので、夜8時25分にキノに行ける人には強力にオススメします。最初から最後までパンチパンチパンチ…ノックアウトされたぜい。
んで、どうしてこういう「玉石分離」的なプログラム編成になったか。
最後から2話目の『夫婦生活』を観て、何となく気づいた。このアニメのネタをプログラム全体に展開したんだな、多分。シャレてるじゃねーか、配給。
どういう事なのかは、後日。全作品の解説を入れますのでしばらくお待ちを…。
…後日です。さあレビューを入れてくか。
今回はきっと大変だよなあ。
『カシュパーレックとホンザ 盗まれた王冠』(73年/7分)
Aプログラムの『けしのみ太郎』と同じスタッフ、同じ時期の作品。技法も同じ。同じ絵柄の切り紙アニメで、声が一人しか登場しない語りモノです。しかもナレの声まで同じなんですが…なんでここまで雰囲気が違うんだ(笑)。双頭のドラゴンがお城に飛んで来て、王冠とカツラを奪って行く。それを取り戻すカシュパーレック(中世風な道化の姿をした少女)とホンザ(農夫風の少年)の活躍を描くアニメです。
まず、この竜が相当にキモい。人間大のサイズですが、ボディのデザインはヨーロッパ中世の空想的な地誌によく登場するドラゴンのまま。それに棒みたいな首が二本、ニョキッと生えていて人間に見えなくもない顔がついてます。それが火を吐いたりするもんだから、キモチワルイのなんの。
次に竜の効果音がヘン。常時エコーがかかるんです。洞窟の中で吠えるとかなら納得できますが、洞窟以外のシーンでもエコーがかかり、まるで竜のいる周囲だけがいつも洞窟化してるような演出です。最初は違和感ありまくりですが、やがて竜の醸し出す閉塞感は観客から恐怖を引出し始めます。
まあカシュパーレックとホンザも、それぞれ独自の(ある意味ナメた)世界観を引きずってデザインされてるので、あいつらだってヘンなんですが。特に無駄にラッキーボーイのホンザが一瞬王冠を奪うシーンなんかは、あまりのバカさ(勢いよく洞窟に飛び込んだら竜にぶつかっちゃって、2秒後には王冠を入手してます (^^;)に場内ウケまくってました。
「褒美をたっぷり」約束した王様が、結局ごちそうと金ボタンしかくれなかったのも、チェコ作品らしい苦さだなあ。二人とも喜んでましたが。
『トラをつかまえろ!』(76年/18分)
場内呆然。このナンセンスなオチ、日本なら企画段階で即座に没だわ。
トルンカスタジオの《ひみつの庭》シリーズ、初期の一篇。いつもはぐうたらなネコ君が、今回は少年たちを相手に大立ち回りです。追いつ、追われつの攻防を繰り返し、ついに庭の塀まで追い詰められてしまう主人公4人組ですが…あわれ猫の毒牙にかからんとするまさにこの時!(パパパパン!)
話に何の関係もない4匹の象が通りかかり、鼻でヒョイッと4人の少年を抱え上げると、耳をパタパタさせて空の彼方へ飛んで行くという…会場で誰か「えっ?」って声を上げてました(笑)。街中の人々のア然とする様を後目に、ナレーションが「こうして4人は無事に家へ帰る事ができました」。と語るやいなやエンドマーク一枚出して終り。追い詰められた時の手塚治虫だってここまではやらんわ!(^^;
あまり興味持ってなかったこのシリーズに、こんな話があっただなんて…ヤラレました。オイラの負けです。ごめんなさい。
『宿なしルンペンくんの話』(72年/13分)
Aプログラムで傑作『郵便屋さんの話』を手掛けたチャペック+ホフマンの手になる作品。この人たち、名前はよく聞くんだけど、今まで観た事がありませんでした。深く深く反省。
ひどい邦題だと思いますが、当たらずと言えど遠からずな内容です。家のないフランチェシェクくんは、色々な人から食べ物を恵んでもらっている、ぶっちゃけて言えば乞食。で、広場に立ってお恵みを待っていると、突風に帽子を飛ばされた紳士が「ちょっとこれ持ってて」と鞄を預けて来る。紳士は帽子を追って広場を駆けて行ってしまうんですな。
仕方ないので彼の帰りをず~~~っと待つフランチェシェクですが、流石に深夜になって、夜回りの警官に不審尋問されてしまう。話自体がどうにも怪しいので逮捕され、「窓に鉄の棒が入った鍵のかかる部屋」に連れて来られてしまう(言っときますが子供向けのアニメっすよ!)。
巡回判事が来てからさあ審問、という事になりますが、鞄を開けたらみんな腰が抜けた。札束の山137万コルナと歯ブラシ一本が入ってるじゃありませんか!
早速事件扱いとなり、フランチェシェクは鉄の棒が入った部屋で1年待たされます。二回目の審問では「死体は発見できないものの」強盗殺人が確定しており、判決は死刑。弁護もなしかよ、ひでェ(笑)。
ちょうどそこへ例の紳士が帽子を手にやってきて「いやあやっと帽子を捕まえましたよ聞いて下さい私ァ去年の今ごろ風に帽子を飛ばされましてね必死で追いかけたんですよ、~~の街とか~~の街とか、クラクフではもう少しの所で捕まえそこねてそれがですね帽子のやつ逃げながらワルシャワで外交官に化けてロシアへひとっとびですわいや追いましたとも追いましたよキエフもモスクワも越えてシベリア鉄道なんか乗っちゃって行き着く果ては東シナ海、ここでやっと帽子に追い着きましてね! でもこの時風向きが変わったんで今度は西へ西へ~(中略)~という訳でやっと最初のこの街で帽子を捕まえたって訳です」…ってな壮大な…壮大な…何だろコレ(笑)。『郵便屋さんの話』もそうでしたが、スケールでかすぎてくださなさがUPしてます。
結局この紳士の登場で全てが丸くおさまり、フランチェシェクはアパートに住めるほどの謝礼をもらい、「でもポケットに穴が開いていたのでお金を落してしまいました。フランチェシェクは気にせず歩き続けます」というモンティ・パイソンみたいなそっけないナレで、おしまい。
この皮肉、この苦み、このアッサリ感。
この人の作品はチェコの真髄だなあ。
『わらべ歌』(49年/7分)
『ルンペンくん』と同じホフマン作品が続きます。
これは実際にある童謡の絵本を使い、そのページの歌に合わせて絵の部分をアニメートさせた連作なんですが…49年にして21世紀の日本のギャグセンスに近いモノを表現しているのが凄かったです。戦後直後の時点で、笑いのツボが日本文化より成熟してる…とは言わないか、落語はこういうセンスだし…子供向けのアニメにまで浸透しているのが信じられない。
完成度も非常に高く、「本の挿絵」という横長フレームでない世界(本作は絵本の内側、正方形のフレームになります)の動きが追求され、そこもまた尽きない魅力の源泉です。本当に本の挿絵が動いているような、不思議な感覚に陥ります。
『タフなビリーとジャイアント・モスキート』(71年/10分)
場内、「ありえねー!」的笑いの嵐。これは噂のみ聞いていて、いつか観てみたかったアニメです。オーストラリアの巨大な蚊を退治したカウボーイ、ビリーの物語。全編ウェスタン調のBGMが入ります。
…ってコレ、演出は完全にアメリカのカトゥーンなんですよ。ハンナ・バーバラ系のチキチキでトムジェリな感じの展開。でも絵柄は手書き鉛筆アニメ特有のザラザラっとしたタッチを前面に押し出して、チェコらしさをアピールしてました。この二者の不つりあい感が、どこにもない可愛らしさ満載なカトゥーンを生み出していて、素敵に笑えます。
DVDで手元に置いて、何度でも観たくなる快作でした。
『エンド・オブ・ザ・キューブ』(79年5分)
79年作品ってコトは、これはかの奇作カナダ映画『CUBE』の元ネタか? 明らかに本作品からインスパイアされたと思われるのは、最後の光景もさりながら、主人公のオッサンの立場が『CUBE』の登場人物の一人にかぶっているからです(ズバリ、部屋を設計してるんだな、これが)。
主人公が口笛で常時吹いている「歓喜の歌」が、エンディングで壮大な合唱になって巨大マンションを映し出す光景はナカナカです。そう。第九同様、万人のための構築物を作っていたんだね。
手書き鉛筆アニメ。画面自体が製図用紙で、その中でキャラクターが世界自体を設計するとという趣向です。手法と目的がこれほどまで一致した手書きアニメは珍しいですな。手堅い良作。
『履歴書』(86年/10分)
Aプログラムの『ネズミ、万歳!』『カフェ』を手掛けた鬼才コウツキーのパステルアニメ。「アニメで自画像」とか「アニメで自伝」とかは珍しくないですが、「アニメで履歴書」ってのは本作以外に『フランク・フィルム』くらいしか知らない。
履歴書は小中学校(スコラ)から始まります。歩くアルファベット、単語、様々なモノと言葉の関係が、無言のアニメーションで描かれる。正当派な感じ。
これが高校(ギジナウム)に移ると、化学式やら年号やら数式やらで雑然としてくる。センスとキレがウリモノだけあって、なかなかこれらの表現はうまい。特にニュートンの重力方程式が落下してアインシュタインのE=mc2に置き換わると周囲の数式がどよめきだす様はイイ感じ。
さて、これが美術学校に進みますと裸婦という名のヌードのオンパレードに(笑)。古今の名画の美女群に加え、やがてコウツキーが興味を持ち始めるアニメが登場します。時代は86年、場所は東欧のチェコですから、著作権も意匠もへったくれもなくディズニーキャラ(ドナルド)やフライシャーキャラ(ポパイ)が堂々と登場したりして痛快。
最後に自らの学歴を、そういう個々のパーツが逆ピラミッドになった姿で一枚の絵に納めてるんですが、てっぺんにいるモナリザの頭の上へコウツキーが昇って、天へ両手を伸ばす仕草は、彼らしいユーモアですねえ。根拠のない自信に満ちあふれている自分を、冷静に観察してますな。
ベルリン金熊。そこまでのモノかと疑問には思うけど、パワーと才能と、チェコらしからぬ尖った姿勢は、十分楽しめるモノです。
『バイオリン・コンサート』(81年/10分)
コウツキーの初期作品と思われる線画アニメ。非常に品がよく、音楽を広い知識で絵にしています。
バイオリンを奏でる男の絵からスタートします。曲は『ラ・カンパネラ』ですが、変奏がとんでもない。ウェスタン風もあれば叙情的なものもあり、ピチカートで進行するのもあるし、メロディを分解したり和声を崩してみたり…そのたびに演奏者自身も変貌して、その変奏が持つ狙いと、変奏がバックボーンにしている音楽ジャンルがアニメーションされる趣向です。
実際に録音に立ち会った演奏者が誰かはわかりませんが、名演奏というより変奏のテクニックの見せ方・聴かせ方や、感情表現が極端に過剰で笑えます。音楽だけならもうほとんどサーカス。この過剰さはアニメの大胆さともうまく噛み合い、非常に楽しい作品に仕上りました。
最後、前衛化しすぎて和声が崩壊し、♪がゴミのように散らばって山になったところで、掃除婦のオバチャンが掃除機持って来て音符を片付けて、会場からは拍手大喝采。
これね、クラッシックから見たアヴァンギャルドという表面的な意味ももちろんあるけど、人形劇から見た演劇、アニメから見た実写…「先鋭化しやすい表現方法」へのチェコ的な皮肉も感じとれたっす。コウツキーですら、クラッシック・スタイルを崩さない人間です。チェコ人は、古い姿・記号化の激しいウソ臭い姿の中に、ちゃんと古びないモノを見てるんだな。
『夫婦生活』(87年/4分)
Aプログラムの『反復』を作ったパヴラートヴァーの作品。東欧社会主義体制の崩壊直前の頃ですが、そんな激動を微塵も感じさせない傑作。この人の作風はもうこの時点で、素晴らしく完成しているんだなあ。
パステル調のアニメで、冒頭のスタッフクレジットと共に、夫婦となった男女のポートフォリオが何枚か映し出されます。仲むつまじい夫婦のようです。
で、本編が始まると丸テーブルに向かい合う二人の姿。奥さんは黙々と編み物してますが、旦那さんはヒマそうだ。指でテーブルをコツコツやってる。辛抱が切れたのか、やがて奥さんに向かって「A」(チェコ語なので「アー」と発音する)と語りかけます。青い活字体で(笑)。
奥さんは無言で編み物没頭中。旦那さん、優しく「A」。無言。今度はねだるように「A~」。奥さん、一言「b」(「ベ」と発音する)と返します。ピンクの筆記体で(笑)。
やがて「A」はエスカレートして行き、設計図つきで微細に分析された「A」やテーブルを占領する巨大な「A」も登場。たま~に奥さんが「bbbbbッ!」と応戦しますが、大概は無視。やがて旦那さん、部屋の壁を埋めつくす巨大な「A」を貼りつけて…。
そこで奥さんが、ススッと「b」の姿をしたソーセージをテーブルに出す。
たまらない匂いに、壁に貼られた「A」がススー…と消えて行くあたりで場内に暖かい笑いが洩れました。
おいしく「b」を頂いた旦那さんが満足げに「b」と語ると、そのピンク色の「b」が二人の中間で消散して、部屋全体が淡いピンクの背景に変わる…二人が見つめ合いながらニコリと笑って、はいオシマイ。
万国共通とはいえ、夫婦の微妙な関係を、一切言葉らしい言葉を使用しないでよく描けたなあ。
さて、大体おわかりでしょうが、「A」の「アー」は非常に男性的・能動的・挑戦的に発音され、またそういう文字デザインが施されています。対する「b」の「ベ」は女性的・受動的、時として皮肉っぽくイヤミな発音。
まさにこの映画プログラムのAとBの選別基準なんですよ! ちょっと《ひみつの庭》シリーズの扱いは逆じゃないかって気がしないでもないけど、アレは長くてバランスが悪いので、容易に動かせなさそうだからな。時間合わせのために、レン・コーポレーションが押えてる素材から尺の合う奴を持って来たような気がするな。
『10ミニッツ・オールダー』におけるレッドとグリーンの違いみたいに、尖った攻撃的なチェコ(主にプラハの春時代&ソ連崩壊後)と、受身で皮肉屋のチェコ(主にプラハの春終了後~ソ連崩壊まで)に分けてる気がします。
『クロスワード』(88年/5分)
前作に続き、パヴラートヴァーの短編。たった一年しか違わないのに、同じ夫婦テーマでここまで真逆のを作るか…?
奥さん、ばっちりメイクしてベッドに横たわり、ムードのある音楽を流しながら旦那の帰りを待ってます。帰って来ました。旦那さん、もう待ち切れないような顔です。走ってます。走って、テーブルに飛びつくとクロスワードはじめちゃった!(爆笑)
奥さんが必死にベッドに誘うのですが、逆効果。「わーい!」って嬉しそうな顔をすると、空いてる欄に「EVA」(イヴ)って書き込みます…強制的にベッドへ連行して寝かせると、旦那さんもちょっと反省して…いやまた満面の笑顔に!
テーブルへ駆け戻ると、最後に残ったクロスワードの4文字を嬉しそうに埋めます。「LOVE」と。いやあ、本当に思い出せなかったんだな。思い付いた時の顔、 すげー嬉しそうだったもんなあ。(^-^;;
愛の醒めてしまった夫婦関係を、これほど厭味なく笑える作品にした手腕は見事。『夫婦生活』と上映順を逆にした方が気持よく終れたでしょうが、あえてこの順になったおかげで、チェコ人らしい笑顔で席を立つ事ができました。配給側の狙いもソレだと思います。
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