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樊噲とサイケな仲間たち

山村浩二セレクト・アニメーション『年をとった鰐』。

『年をとった鰐』


こういう企画モノのオムニバスが全国規模で上映されること自体がもうすごい大事件なんですが、まあ世間的には地味~に扱われてますね…いいけど。
今や日本を代表する立場になった本職アニメーターのセレクトだけあって、強烈な組み合わせになっていました。お近くの映画館でやってたら、ぜひぜひ観に行ってひっくり返るべし。ただしディズニーは『ファンタジア』の一曲目、「トッカータとフーガ ニ短調」のアニメで乗れなかった記憶のある人には辛い行脚となるでしょう(警告)。
これはあくまで物語性の薄い「動く美術館」、アートアニメのオムニバスですから。

『ビーズゲーム』(1977年、IMDb
ビーズの円形面を黒い背景に並べて絵を描き、少しづつ動かしながら地球の歴史を描く短編。ヤン・シュワンクマイエルの『石のゲーム』(IMDb)を知ってる人には「アレと同じだから」と言っとけば済むという、たま~に見かけるタイプの作品です。凄いのは大量のビーズがパーカッション音楽とシンクロして動き回る後半。序盤のおっとりしたテンポはどこへやら、人類の核兵器発明に至るまでの画が、60年代風のサイケデリックな色彩で、乱舞する怒涛のビーズたちによって描かれます…ヤン爺もやってるけどね(しつこい)。
●追記:ああっ! この監督、DVD出てる~! イシュ・パテル。マクラーレンに発掘されたインド人アニメーターなんだとか。なるほど、あの音楽センスはインドだからか…。

『アリの冒険』(1983年)
ロシアアニメ。ノルシュテインみたいにワケわっかんねー感じのアニメじゃないですが、何となく深い(と思わせる所もロシアン・マジックかな)。乗っていた木の葉が風に飛ばされ、川向こうの地へ落ちてしまった働きアリが、必死に自分の巣へ帰ろうとする10分版『みなしごハッチ』。定期的にスクリーンいっぱいに落ちていく夕陽が挿入され、これがまた手を抜かずに描写されていて、観る者に物凄い圧迫感を与えます。色使いは図鑑風で妙にマジメなイメージがあり、なのに昆虫のデザインはカトゥーンっぽく崩れてて、それが動き出すと中抜きなしの精細な動画で虫たちの群れが死ぬほどリアルに這い回る。可愛いんだかキモいんだか…ああ! こういうのがキモカワイイなのか! でも壮絶にマジメで、タイムリミット付きサスペンス。とても「『アンツ』みたいだったよ~」「一言でいえば『バグズ・ライフ』だね」なんて言えません。既成ジャンルでは到底分類不可能な、真摯なヘンテコスペクタクル。

『リボルバー』(1993年)
ちょっと可愛い線画風セルアニメ…絵柄はね。ナメてかかってると、窒息しそうなほどの閉塞感が襲ってくる地獄の8分。「リボルバー」というタイトルは、「生死」「回転」というふたつの意味から来ているようで、「死にそうで死なない」という、生殺し的な状況のエピソードが、それぞれエンドレスにループしながら、何度も登場してきます。海賊船に送られる赤ん坊の無限の列。溺れそうで溺れない男。何度も何度も何度も何度も麺棒で伸されて喘ぐ魚。光を当てると逃げていく時計蟹。エトセトラ、エトセトラ。音楽もオルゴール風のエンドレスな曲に、時計の機械音が紛れ込み、何と言うか閉所恐怖症気味です。そこへ、時々スクリーンに挿入される4桁の数字…1700台から始まり、少しづつカウントアップしていくという…1950まで続くので明らかに年号ですが、意味は不明。テーマは不明でもモンタージュのパワーが凄いので、見ている間、猛烈に追い詰められました。3回繰り返して見れば痩せそうです(笑)。

『色彩幻想』(1949年、IMDb
出ましたカナダの宝刀ノーマン・マクラーレン! …って、こないだ札幌国際短編映画祭に来てたノンフィクション『マクラーレンの世界』でその存在を知ったので、彼の完全な作品を見たのは初めてです。予想通りの「動く前衛絵画」でした。フィルムに直接着色したりして、とにかく「何も表象しない」アニメーション。曲はジャズが使われてるんですが、これに合わせて、色のイメージのみが乱舞する。かと思えば、黒いバックに金属の弦のような光輝がリアルに揺れ動く…何かを感光させてるんでしょうが、明らかにアニメートされてるので、どうやって撮ったかわからんす。この作品をセレクトする事で、他の平凡なアニメ上映会とは完全に一線を画したと思います。まるで美術館に行ったみたいな感じかな。

『フランクフィルム』(1973年、IMDb
マクラーレンが饒舌に何も語らないアニメを作った一方で、コチラは監督の与太話的モノローグ(一応、自分の生い立ちを語ってる)に合わせて、全コマで、数十万枚の写真や雑誌切抜きが乱れ動く、極限の表象。冒頭で語られますが、この切抜きを集めるのに数年かかったそうです。作中でアンディ・ウォーホルの名前が出ますが(その時画面には大量のキャンベルスープが (^-^;)、彼のアートを限界まで過剰にした感じ。物欲帝国アメリカとヒッピー文化の接点にある、フレッシュネスバーガーっぽい記号文化の大津波。

『スワンプ』(1991年、IMDb
影絵風アニメ作品。充分アートアニメですが、今回の上映では珍しくストーリーがあったので普通の作品に見えちゃったという…でもコレ、SFファンタジーとしては凄いです。巨大なオレンジのバルーンをつけた馬上の騎士が登場し、青バルーンの騎士と馬上対決。なぜか馬が走るとチャプチャプ音がするんですが…あっ! オレンジの騎士が敵のバルーンを槍で断ち切ったぞッ! …ずぶずぶずぶ…。やっぱりタイトル通り、沼の上の世界だったんですね。白バックの絵巻物みたいな構図で、画面が左右にしか移動しない上、足元が描かれないので「観客の想像力を信じます」タイプの作品になってます。で、勝ったオレンジ騎士はオレンジ軍を引き連れて青軍の軍勢へ攻め入っていくんですが…ヒヒヒーン! ドドドド…ずぶずぶずぶずぶ…不毛な戦いっすなあ。クライマックスでは、このスワンプ界がひっくり返るような、座布団3枚級の大発見があるのですが…素晴らしすぎてここには書けません(笑)。

『おとぎ話』(1984年)
これは内容が明快でしたが、「とことん不条理で遊ぶぜ!」という目的だけが明快だったという…ま、今回のは意味不明アニメ傑作選なのでいいんです。帽子の河で釣りをする男の帽子の川で釣りをする男の…無人島の男の下へヘリコプターがやってきたらガムで地面へ固定されちゃって、いつの間にかヤシの木に…船の進行のジャマだから大波はノコギリで削っちゃえ! …まあ、そんな意味不明世界へ現実逃避するおバカちゃんの楽しいドラッグ・ムービー。1秒に1回襲ってくるネタの連続に、頭が破裂しますです。

『年をとった鰐』(2005年)
豪快なラスボスです。倒せません(笑)。えー、一応表題作でもあり、今回の作品集のプログラム・ディレクターである山村浩二作品…なんだけど、他のがあまりに凄いんで、ラストのオマケみたいな感じになっちゃいました…多分その線を狙ってるんでしょうが。最終作品ってコトもあり、うちのブログのタイトルにも使ってる「樊噲」(上田秋成の短編集『春雨物語』最後の作品)っぽい感じがあります…もしかしたらこれも狙ってるかも。というのは春雨の現代語訳をやった石川淳が樊噲を評した時の、「言葉が言葉を生む」という散文の原理に近い流れになっているからです。映画のチラシではセッセとストーリー解説とか話の意味とかが書いてありましたけど、本作はこのテキトーさこそが命なんじゃないかと思います。しかも主人公の鰐は猛烈に丈夫(ますらお)っぽい、一種のバカ。原作はフランスですが、『大魔神』とかに通じる日本神話的アンブレイカブルなムチャクチャさがあります。それはまさに、秋成の描いた無敵の大悪党樊噲の人物像そのものなんですよね…後半、次第に重要になってくる「赤」という色の意味も、古代の日本人の精神を表す色として見た方がいいかも。直前に『死者の書』を観てなかったら気付かずにスルーしてるとこでしたが、日本神話・民話との相関性やシンクロ度はもっと語られてもいいと思います。

…また熱く語ってしまったよ…。
●追記:あ、公式ブログ見たら、もうDVD発売が決まってる…山村浩二にマクラーレンがついて4000円台はお得ですな。

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